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ベアトリス·べリュ 45 冬枯れの森の中を歩く男女を / 月が追っている 二人は月を見上げる / 月は楢(なら)の 巨木を照らし進んでいく / 雲一つない夜空が月明かりに映え / 黒い樹頭が天に向かってそ びえている / 女が口を開く: /「お腹の子は あなたの子ではないの / あなたの傍らで 私は罪を背負っている / 私は大きな過ちを犯した / 幸せになんかなれないと諦めていたの に / 生きがいを欲し / 母としての喜びを切望し / 母としての務めに憧れた / だから私は無 謀にも / 身を震わせながら / 知らない男に抱かれた / しかも私は満悦した / いま私の人 生は その報いを受けている / 私は出会った 嗚呼 あなたと出会った」/ 女の足元はお ぼつかない / 女が空を見上げると 月が二人を追っている / 女の暗いまなざしが 月明 かりに浸る / 男が口を開く:/「お腹の子を / 君の心の重荷にしてはならない / ご覧 宙 (そら)はあんなにも明るく輝いている! / すべてが まばゆい光をまとっている / 君は僕 と一緒に冷たい海の上を漂流している / けれど 僕の心を照らす君のぬくもりと / 君の心 を照らす僕のぬくもりが / 知らない男の子どもを浄めてくれる / 僕のために産んでくれ 僕 の子として… / 君は 僕の心に光をもたらし / 僕自身をも子どもにした」/ 身重の腰に 男が手をまわす / 夜風に吹かれて 二人の息が交わる / 二人は 崇高に輝く夜の中を進 んでいく 訳:西 久美子 浄夜 リヒャルト·デーメル (* 18.11.1863, † 08.02.1920)

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