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44 マーラー ∙ シェーンベルク / ユーゲント·シュティール “おお僕のマティルデ、僕が君を見つめるとき、僕は美を見つめている!僕と腕を組み、冬枯 れの暗夜の中を進むのは君だ。心の内に重荷を抱え、自責の念にかられているのは君だ。 だが君を誰よりも愛する僕は、君の重荷に手を添え、君の負担を軽くしよう。僕たちは新た な夜明けを目指して共に歩んでいく。” 彼は、まだ彼女に伝えられないでいる想いを筆に託した。来る日も来る日も、彼女のしなや かな体つきと白い手を幾度も思い返し、その艷やかな髪が腰へと落ちるのを夢に見た彼 は、念入りに練った六重奏曲の音符たちを、たわわに実った麦の穂のように両手いっぱい に掴んで五線紙の上にばらまいた。あたたかいパンを想像し、空腹で腹がひきつった。詩人 リヒャルト·デーメルの『浄夜』は正鵠を射ている。そう、愛は過去の亡霊よりも偉大なのだ! 真の愛は、許し、受け入れ、苦悩を分かち合う……。彼は泰然として構えている。なぜなら、 彼女が早晩自分のものになると知っているからだ。そして彼は、この恍惚とした、だが落ち 着かない“待ち時間”を大いに楽しんだ。それは彼の音楽と情熱を昇華させた。夕暮れ時、 彼女の身体の曲線は、この日彼が作曲した旋律のうねりと絡み合い、一つになったように 彼には感じられた。太陽が地平線の下に沈むと、頬を赤らめた二人は、耳をつんざくような 沈黙に酔いしれ、恥じらいながら、田舎の小さな家に帰っていった。そのとき二人は、シュヴ ァルツァ川の灯が消え、星が瞬くのを目にした。
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