LDV78.9

42 ベートーヴェン いわゆるエコール・フランセーズ(フランス楽派)においては、演奏時の控えめ な身振りが推奨されています。だからといって、ベートーヴェンの書法の雄弁 な荒々しさを身振りで表現することさえ慎むべきなのでしょうか? 荒々しい身振りと荒々しい響きを結びつけることは、必須とは言えないまでも、面白い試み になりえます。ただし、度が過ぎるのを避けるため、慎重になされなければなりません。ドミト リー・シトコヴェツキーから聞いた話によると、ダヴィッド・オイストラフとリヒテルがベートーヴ ェンの《ヴァイオリン・ソナタ第4番》を演奏した際、リヒテルは作品の山場の一つを殊更に荒 々しい身振りで弾き、聴衆に生々しい衝撃を与えたそうです。ただしそれは、音楽を演劇 的に捉えることによって生じる視覚的な衝撃です。 ベートーヴェンの音楽では、休符にも特別な意味を感じますか? ベートーヴェンは初期作品においてさえ、極めて効果的に休符/沈黙を用いています。そ の最たる例が、op.7とop.10-3(第7番)の緩徐楽章です。これはモーツァルトとは対照的な 特徴と言えます。というのもモーツァルトは、幸福から死まで、何を表現するときでも、あまり に生に固執していました。シューベルトが、昔も今も“休符の大家”であり続けていることは、 万人の認めるところです。そしてロマン主義時代が進めば進むほど、休符はその存在をよ りいっそう主張するようになっていきます。

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