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38 ベートーヴェン ベートーヴェンのソナタの書法の進展を、どのように捉えていますか? 以前の様式との断絶を示す重要なターニングポイントは、1804年に完成した《第21番op.53 「ワルトシュタイン」》だと思います。低音を轟かせる冒頭は、いささか印象主義的な雰囲気 を醸し出しています。ドビュッシーの様式とは確かに異なりますが、それでも私は、パリ音楽 院で教えている生徒たちに、この“響きのうなり”を表現するに当たって、書法の明瞭さを保 つよう勧めています。こうした点ゆえに私は、ベートーヴェンの音楽を語る上でフレージング という言葉を使ってはならないと考えています。むしろ使用すべき語は、アーティキュレー ションとアクセントです。フレージングの概念が初めて現れるのは、ロマン主義時代に入っ てからです。ベートーヴェンは何よりもまず“古典派”の作曲家であり、その初期のソナタに は、ハイドンからの影響が色濃く見出されます。
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