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34 エクスターズ・マクシマ その後に、ペソン、ジャエル、リストと、“トリスタン”の世界に入っていくわけですね・・・ W.L. : ええ、壮大な《幻想曲》の後に、ペソンの《マストの上で》が続き、新しい地平が開か れます。この曲も、ディスク全体の流れに完全に組み込まれています。というのも、ワーグ ナーの《トリスタンとイゾルデ》の冒頭、第1場の「水夫の歌」を基にしているのです。この曲 の場合は編曲というよりも、ワーグナーが書いたあの不思議な単旋律に和声を付すという 方法が取られています。この曲が、今回の録音の“トリスタン3部作”のトップバッターです。 プログラムの柱である《イゾルデの愛の死》の前に、ジャエルが《トリスタンとイゾルデ》を基 に書いた曲集(全3曲)の第1曲を置きました。若干ぎこちない編曲ではあるのですが、「手 直し」はしていません。頭の中で《トリスタンとイゾルデ》の管弦楽の響きをイメージして曲に 近づきましたが、それでも“管弦楽の編曲”にはならないように努め、この作品を純粋なピア ノ曲として捉え直しています――あえて特定の要素を際立たせ、あるいは控え目にしてい るのは、そのためです。 《トリスタンとイゾルデ》の管弦楽の響き、と仰いましたが、貴方が特に強い印象を受け た原曲の演奏は何でしょうか? W.L. : 特に愛着があるのは、ビルギット・ニルソンとヴォルフガング・ヴィントガッセンが出演 した、カール・ベーム指揮の1966年のバイロイトの録音です。 《イゾルデの愛の死》は演奏者にとって身近な編曲作品ですが、貴方はいつ頃これをレ パートリーに取り入れたのですか? W.L. :リヨン音楽院の卒業試験のために取り組んだのが最初で、その何年か後に再び取り 上げました。今回のワーグナー・プロジェクトをきっかけに、再びこの作品と向き合えたこと は大きな喜びでした。正直に言うと、この曲を弾いている時にはどちらかというと《トリスタン とイゾルデ》の第2幕を思い浮かべます――トリスタンも聴こえてくるのです・・・

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