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39 その『舟歌』は最後期の絶頂期のショパンがその芸術を存分に示しています。 エクリチュールは、驚くほどの豊かさに達しています。豊富な和声、音楽のなかに完璧に組 み入れられたポリフォニー。第一、イントロ部分で見事な長 9 度の和音が聴こえます。これ は未来に開かれた扉ですね。この和音が爆発して、一連の和音群につながっていきます。 そこには、作品の他の部分にもあるのですが、印象派的探求が感じられます。この短い序 奏部を過ぎると、とてもシンプルな舟歌の伴奏が始まります。このときには、これから出てく る、徐々に自由になりながら構築されてゆく音楽を想像することはなかなかできません。角 や枠のようなものはもうなくなって、音楽が全く自然に、見事な和声とともに流れ出すので す。「ドルチェ・スフォガート」と記された素晴らしいパッセージにはいる直前、一瞬時間が 止まり、中域部の下のほうで、半音階的に進む一連の和音が聴こえます( 72 から 77 小節)。こ れはもうワグナーの世界で、『トリスタン』の第二幕を思い浮かべてしまいます。 この曲で、ショパンはずいぶん遠くにまで到達しています。まるですでに対岸に到着したよ うに。さっきお話ししたイタリア風の光がここではもっと輝いていて、それが少々霧によって 柔らかくなっていて、ショパンが生涯行ったことのなかったヴェネツィアの潟水が彼にこの傑 作のインスピレーションを与えているのです。そこではラヴェルが「神秘的な至上の栄光」と 呼んだ、ついに手にした平穏によって、死が語られているのです。 フィリップ・ビアンコーニ

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