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49 ジャン=マルク·ルイサダ このインタビューの冒頭で貴方は、『ベニスに死す』を初めて観て感動した時のことを振り 返りましたね。最後に、貴方が愛でる数々の映画の中でも特別な位置を占めるこの作品に ついて、お話しください。 確かに、私にとって『ベニスに死す』は特別な存在です。この映画を観ると、ヴィスコンティが、 あらゆる芸術形式に関して並々ならぬ知識を有していたことがわかります。大スクリーンの 中で、種々の芸術形式が溶け合い、一つの身振りと化しています。これに関して私が特に言 及しておきたいのは、主人公グスタフ・フォン・アッシェンバッハが、過ぎ去っていく美と人生 に考えを巡らせながら死を迎える場面です。この時、女性がムソルグスキーの歌曲集《死の 歌と踊り》の〈子守唄〉を歌います。 そしてもちろん、『ベニスに死す』と言えば、マーラーの第5交響曲の〈アダージェット〉です ね。本盤では、アレクサンドル・タローが編曲したピアノ独奏版を取り上げました。私は、真 の芸術家であるタローを尊敬していますし、今回、編曲版の録音を快く許可してくれたこ とに感謝しています。本盤で私は、〈アダージョ〉がもつ交響楽的な側面をできる限り伝え ようと努めています。この音楽は言わば、時を回折させます。実のところ、この曲を演奏する たびに、神々しく濃密なヴィスコンティの映像が指に重くのしかかるような感覚をおぼえま す。その瞬間に私は、シュテファン・ツヴァイクの有名な小説のタイトルと同様、“感情の混乱 Verwirrung der Gefühle”を体験することになります。

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