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45 ジャン=マルク·ルイサダ 今回の選曲には意外性もあります。たとえば、ジョン・ヒューストンの西部劇映画『許され ざる者』とモーツァルトの《幻想曲 ニ短調》は、“まずあり得ない”組み合わせです。この曲 は劇中でどのような役割を演じていると思われますか? “まずあり得ない”という言葉は、『許されざる者』で流れる全ての楽曲に当てはまります。私 は、このハリウッド映画の真髄をなす作品を、子どもの頃に両親と映画館で観ました。ただし 『許されざる者』は、キャストは素晴らしいのですが、ヒューストンの最高傑作とは言えない と思います。この映画の中で、主人公(バート・ランカスター)が母親(リリアン・ギッシュ)に 贈る一台のピアノが、荷車に載せられ、荒野のど真ん中に届きます。周囲に何もない、人里離 れた荒野に……。彼女は《幻想曲 ニ短調》の抜粋を、とても遅いテンポで奏でます。これに ちなんで、本盤に幻想曲を収めることにしました。残酷な物語の中で、しばしの静謐が訪れ るシーンです。
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