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40 今夜は映画館で 映画に関して実に幅広い嗜好をお持ちですが、その嗜好の変遷に、貴方のピアノ・レパート リーの変遷と相通ずるところはありますか? あると思います。嗜好には、時に奇妙な変化が起こるものです。いずれにせよ私は、映画でも 音楽でも、10代の頃に愛した作品をいまだに好んでいます。パリ国立音楽院で学んでいた 時、少なくとも週に4回は映画館に通っていました——当時の私は、周囲の皆が“必須”とみ なす楽曲をさらっていましたが、現在の私がそれらを弾くことはありません! 近頃、私はカ ール・ミュンヒンガーの録音を聞き直しています。いわゆる“歴史的情報に基づく演奏(HIP)” とはかけ離れた彼のモーツァルトは、どれも天の調べのように美しい演奏です。音楽の広が りとは何なのか? フレーズを持続させるとはどういうことなのか? そのような問いに関 して、私はパリのエコール・ノルマル音楽院の生徒たちに、ミュンヒンガーやヴィルヘルム・フ ルトヴェングラーの演奏を聞くよう勧めています。ひとは必ず、最初に愛したものや、かつて 偉大な演奏家たちから得た精神的な“滋養”へ“回帰”します。私の場合、以前に比べて、ショ パン、シューマン、スクリャービンの音楽への愛はやや薄れてきたかもしれません。一方、バッ ハ、モーツァルト、シューベルトは、私にとって最も重要で不可欠なレパートリーになりつつ あります。とにかく実情はそうなのです。 それは映画にも当てはまります。学生時代に関心を引かれた幾つかの作品は、今の私には 凝りすぎているように感じられ、楽しめません。

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